(背景)心疾患は本邦の死因の第2位を占めており、老衰を除くと90歳以上の死因の第1位となる。心臓の自己再生能は非常に限られており、心疾患への更なる新規治療法の開発が切望されている。microRNA(miR)やlong noncoding RNA(lncRNA)に代表されるnoncoding RNAは特定の遺伝子発現を抑制して、心疾患など多様な疾患の病態に寄与する。我々は、β遮断薬のカルベジロールが心臓のβ1受容体におけるβアレスチン経路を介してmiRの生合成を制御し、心保護に寄与する事を報告した。βアレスチン経路によって制御される複数のmiRの中でも、特にmiR-150は心不全の重症度や重症心不全患者の予後に相関すると報告されている。lncRNA Myocardial Infarction Associated Transcript(MIAT)はラットの眼組織でmiR-150を制御すると報告されており、MIATの一塩基多型はヒトの心筋梗塞の発症に関与している。
(方法・結果)我々はMIAT-miR-150軸の心筋梗塞における役割を検討するため、MIAT及びmiR-150の遺伝子改変マウスを用いて検証を行った。心臓内のMIATは心筋梗塞によって発現亢進し、MIAT過剰発現マウス(MIAT TG)及び欠損マウス(MIAT KO)の心組織では、MIATの発現量がmiR-150と逆相関する事が確認された。心筋梗塞4週間後では野生型マウス(WT)に比べてMIAT KOは心機能が改善してリモデリングが抑制されていた。MIAT TGではWTに比べて心機能が増悪して過剰なリモデリングが認められたが、miR-150を過剰発現させる事でMIAT TGの過剰リモデリングが緩和された。WT及びMIAT KOの心筋梗塞後の心組織のRNAアレイ解析を行い、MIAT-miR-150軸によって制御される新規ターゲット遺伝子としてHoxa4を抽出した。in vitroでの検証により、Hoxa4は心繊維芽細胞の増殖及び遊走を制御する事で心筋梗塞後の過剰なリモデリング抑制に関与することが示唆された。
(結論)MIATは心筋梗塞後の不適応なリモデリングを助長させ、miR-150はHoxa4を制御する事でMIATによる有害な影響を抑制することが示された。MIAT-miR-150軸は将来の心疾患治療のターゲットとなる可能性が示唆された。