【背景】近年、森林浴と血圧に関する論文が幾つか報告され交感神経活性抑制や降圧作用があるとされている。しかし、森林環境中のどのような因子が関与しているのか十分解明されていない。
【目的】森林環境中には樹木が合成するモノテルペン類が存在するとされており、モノテルペン類の中でも主要な成分であるα-Pneneと降圧効果について検討を行った。
【方法】モノテルペン類は、固相抽出(SPME)ファイバーを用い質量分析装置(GC/MS)で解析を行った。森林大気中のモノテルペン濃度を測定するために10Lテドラーバックを用いて捕集し、SPMEファイバーと1時間反応させた後に、GC/MS解析をおこなった。森林環境から人体への移行性を調べるために森林散策1時間後の被検者から血液10mlを採血し、密閉管に分注、1時間加温しながらSPMEファイバーと1時間反応させた後にGC/MS解析をおこなった。モノテルペン類の抗酸化用は、スピントラップ剤にDMPOを用い、電子スピン共鳴装法(ESR)により2次反応定数を求めた。モノテルペン類の脳への移行性を調べるためにファーマコセル社のBBBキットを用い血液脳関門(BBB)透過性の評価を行った。ラット拘束ストレス群と非拘束群において0.01%α-Pineneを吸入させた場合とさせなかった場合での血圧変化を測定、その後、脳を摘出してLucigeninによる化学発光法により脳内酸化ストレスを評価した。
【結果】針葉樹林大気中のα-Pinene濃度は5.2±0.64ng/Lであり、森林散策1時間後の被検者のα-ピネンの血中平均濃度は2.6±0.26μg/Lで森林大気濃度に比べほぼ500倍の濃度であった。森林散策前後の血圧変化は、血中のα-Pnene濃度に比例して下がる傾向を示していた(P<0.05)。ESR法による水酸化ラジカルに対するα-Pneneの2次反応定数は5.1×10と求められた。BBBキットから求められた血液脳関門透過係数は40.5となり、この透過性は陽性コントロールのカフェイン42.58とほぼ等しかった。ラット拘束ストレスモデルを用いた脳内酸化ストレスと血圧変化は、拘束群で10±3.4Kcpm、収縮期血圧130.5±4.1mmHgに対しα-Pnene暴露群では3.5±2.2 Kcpm、収縮期血圧114±2.1mmHgであった。
【結論】高血圧成因メカニズムの1つとして脳内酸化ストレス亢進による腎交感神経活性化が考えられている。森林浴後の血圧降下機序として体内で濃縮されたα-PneneがBBBを通過、脳内酸化ストレスを改善することに起因する可能性が示唆された。