自然免疫受容体Toll-like receptor 4(TLR4)やCaspase4/11(Casp4/11)を介した炎症反応は、多様な急性及び慢性炎症性疾患の強力な増悪因子となる。 これらのリポ多糖受容体は、LPSに加えて炎症時に核から細胞外に放出されるDAMPsであるHMGB1をはじめとする生体内の様々な炎症トリガー因子(アラーミン)によって2量体化/オリゴマー化が促進されて活性化することが知られているが、その制御機構の全貌は明らかではない。
 シアル酸を有するスフィンゴ糖脂質をガングリオシドと呼び、GM3はヒト血液中の主要なガングリオシドである。我々は、極長鎖ガングリオシドGM3(アシル鎖長 C22, C24など)は単球・マクロファージ上のTLR4のLPSやHMGB1による活性化を強く促進し、反対に長鎖GM3(C16, C18など)は抑制することから、TLR4の活性化を正負両方向に制御する“内因性リガンド”であることを報告した[Kanoh, Inokuchi et al., EMBO J 2020, PMID: 32378734]。メタボリックシンドロームや慢性炎症病態におけるヒト血清およびマウス脂肪組織では、炎症抑制性の長鎖GM3は減少し、反対に、炎症促進性の極長鎖GM3の発現が増加することから、GM3分子種バランスは生体恒常性の維持に関与することが示唆される。
 最近我々は、極長鎖GM3は、細胞内のリポ多糖受容体であるCasp4/11を介した炎症性細胞死(パイロトーシス)を大きく亢進させ、反対に、長鎖GM3は、それらの応答を強く抑制することを見出した。TLR4活性化によって産生されるサイトカインのうち、TNF-αを含む多くのサイトカインは分泌シグナルをもち、刺激後、すみやかに放出されるが、IL-1αなどの一部のサイトカインは分泌シグナルをもたず、TLR4活性化に加えて、Casp4/11およびGsdmDを介した細胞膜ポア形成によって放出される。極長鎖GM3によるIL-1α放出の促進は、これらの因子を経由しており、加えて、タンパク質性DAMPs(アラーミン)であるGalectin-3存在下でその応答がさらに促進されることを見出している。
 敗血症モデルを用いて長鎖GM3分子種の抗炎症効果を検証したところ、LPS投与によって敗血症ショックを誘導したマウスの腹腔内に長鎖GM3(GM3C16)を投与すると、TNFαおよびIL-1αの血中濃度が有意に低下した。TLR4とCasp4/11を同時に制御可能な抗炎症薬は知られていない。
 今後、GM3分子種の発現バランスが自然免疫受容体を介して生体恒常性を制御する新機構と、その破綻による疾患発症機序が解明され、GM3の広範な医薬応用性が世界に先駆けて提示されるものと期待される。