トランスポーターは、細胞膜にあって物質の透過を担う輸送タンパク質である。当初トランスポーターは、薬物輸送との関連に注目がなされ、薬物動態(吸収、分布、代謝、排泄)の寄与因子である薬物トランスポーターが医薬品の開発へ利用される一例となった。加えて最近では、例えば腎臓のNa+依存性グルコーストランスポーターSGLT2阻害薬が新規抗糖尿病薬として開発・導入されなど、トランスポーターと病態との関連が徐々に明らかになり、創薬の分子標的としての役割が注目を集めている。  本講演では演者の主要な研究テーマの1つである抗悪性腫瘍薬開発と腫瘍型発現を示すL型アミノ酸トランスポーターLAT1に関し、最近取り組んでいるトランスポーター科学に基づくホウ素中性子捕捉療法BNCT用新規増感化合物開発を例に、トランスポーター分子標的創薬について紹介をしたい。  ホウ素中性子捕捉療法(Boron Neutron Capture Therapy: BNCT)は原子炉等から発生する中性子とそれに増感効果のあるホウ素との反応を利用して、正常細胞は損傷せずに腫瘍細胞のみを選択的に破壊する治療法である。BNCTの抗腫瘍効果は、細胞へのホウ素の蓄積に依存するが、現在利用されている増感薬BPA(p-Boronophenylalanine)ではがん細胞への蓄積は十分ではない。BPAは腫瘍型アミノ酸トランスポーターLAT1により細胞内に入るため、LAT1を介してさらに蓄積性の高い化合物を見出す事は、BNCTの抗腫瘍効果改善につながる。本講演では近年我が国に導入されつつある院内型中性子加速器によるBNCT治療への応用におけるトランスポーター研究の可能性について触れたい。