パクチーとコリアンダーは、学名がCoriandrum sativum L.であり、同一である事を御存じであろうか?日本では特に近年のエスニックブームで登場した「パクチー」が、あたかも一般名称と成っているが、世界各地での呼称は異なっている。例えば、東南アジアでは、「パクチー」、中国系ではシャンツアイ(香菜)、地中海世界ではコエンドロ、英語圏ではコリアンダーと謂われている。このパクチーが「外来野菜」として、我が国に到来した時期は平安時代との記録があり、古くから「胡荽(こすい,こずい)」、「コエンドロ」の名前で機能性生薬として用いられてきた。この様に、「パクチー」は決して最近の外来野菜では無く、カレーなどの香辛料として使用されている「コリアンダー」は「パクチー」の果実が用いられている。この様な背景の下で、パクチーの機能性を科学的に証明し健康食材として発展させる事を目的として、(一社)パクチーアカデミー協会は、平成27年(2015)1月12日に発足した。協会が発足する5-6年前、日本では、若い女性が「デトックス」として食した事がブームを呼んだ一つの理由とされている。「デトックス」とは「解毒」の意味であるが、一般女性には「美肌作用」、「免疫低下抑制作用」などの拡大解釈として信じられている事がブームの一因である。確かに、文献上においても「各種重金属(鉛、ヒ素、セシウム等)の排泄機能」が実証され、調理においてもパクチーが有する独特の香りと解毒を考慮した煮料理やスープなどがエスニック料理で人気を得ている。さらに、「免疫低下抑制効果」として、我々の研究のみならず多くの論文でも実証されている「抗酸化作用」が挙げられる。その他、パクチーの機能性に関しては、古代エジプトの医学書に、静穏作用や抗炎症効果が記述され、ヨーロッパやエジプトやアジア・中国では料理の食材のみならず伝統医療にも使用されていた。実際に、論文検索を行うと、感染症の予防や治療、飲用だけではなく食油として皮膚に塗布する抗炎症効果、さらには、抗痙攣作用などの中枢作用も報告されている。しかも、葉や果実での効能の違いも報告されている。このように、幅広い効能が示唆されたパクチーを「機能性食材」として、「健康長寿」を目指す我が国で広める事は医療費削減にも繋がる。一方、パクチーの独特の匂いに関しては、「好き嫌い」を分ける分岐点であるが、最近の我々の研究から「匂いと機能性との関連性は低い」事が実証されている。今後、「パクチーの魅力」を嗜好性からも考慮して発展させていきたい。