パーキンソン病の原因は明らかでなく、根治治療法がないのが現状である。パーキンソン病のリスクファクターに加齢があり、加齢に伴う脳細胞外Zn2+動態の変化がこのリスクファクターと関連すると仮定し、研究を展開してきた。定常時の神経細胞内Zn2+濃度は約100 pMであるのに対して、細胞外Zn2+濃度は約10 nMと高く、加齢に伴い増加する。加齢に伴う細胞外Zn2+恒常性の変化と関係するZn2+流入が神経細胞内Zn2+恒常性を破綻させ、選択的に黒質神経細胞死を惹起すると仮定した。パーキンソン病モデル作製に用いられる6-hydroxydopamineや除草剤パラコートをラット黒質に投与すると、これらのドパミン神経毒はドパミントランスポーターを介して細胞内に取り込まれ、活性酸素を産生する。そのなかで過酸化水素は逆行性に輸送され、ドパミン作動性神経に投射するグルタミン酸作動性神経終末を興奮させる。その結果、細胞外Zn2+はZn2+透過性GluR2欠損 AMPA受容体を介して速やかにドパミン作動性神経細胞に流入し、Zn2+恒常性を破綻させて黒質ドパミン神経細胞死を惹起する発症機構を明らかにした。神経細胞内Zn2+恒常性維持はパーキンソン病の新たな予防戦略につながる。一方、コリアンダー(coriander、学名: Coriandrum sativum L.)はセリ科の一年草であり、パクチーとも呼ばれている。新鮮なパクチーの葉はアジアの国々で様々な料理に用いられている。これまでに、マウスにパクチーエキスを摂取させることにより、腎臓では鉄などの重金属濃度が低下し、活性酸素の産生を著しく低下させることを明らかにしてきた。本シンポジウムでは、パクチーエキスが活性酸素によるZn2+恒常性破綻を改善し、黒質ドパミン神経細胞死を阻止することを紹介する。