【目的】パクチー(Coriandrum sativum L.) はセリ科 Umbelliferae の一年草で,中央および西部ヨーロッパ,インドから中国に至るアジア諸地域に幅広く分布している.その全草または種子は,食用あるいは伝統医療の生薬として用いられている.インドでは伝統医学であるアユルヴェーダにおいて,パクチーの種子または果実を消化不良,呼吸器や泌尿器疾患などの治療に用いており,食用としては葉や種子を用いている.中国医学においても全草または種子を用いて,はしかの発疹治療や解毒,食物の消化不良を改善にあてている.そのほか鎮静や抗痙攣,抗菌,血尿,血圧降下などの作用が報告されているが,これらの作用の多くは種子・果実,精油に関わるものであり,最近新たな食材として認知されている地上部(葉・茎)に関するもの,水溶性分画に関する検討は十分とは言えない.そこで今回我々はパクチー地上部の血管および心機能に対する作用に注目し,若干の知見を得たので報告する. 【方法】新鮮なパクチーの地上部(葉・茎)より,酢酸エチルおよび熱水抽出エキスを得た.得られたエキスの作用は,ラットの摘出血管によるマグヌス法,およびランゲンドルフ灌流心にて評価した。 【結果と考察】パクチーの酢酸エチルは,ノルエピネフリン (NE) で収縮した血管に対し,内皮依存・非依存性の二相性の血管弛緩作用を示した.内皮依存性の弛緩作用はLNMMAの前投与により抑制されたことから,内皮からのNO産生によるものと考えられた.一方,熱水エキスは内皮非依存性の血管弛緩作用のみを示した。熱水エキスの前投与はNEによる血管収縮を抑制しなかったことから,アドレナリン受容体に拮抗しないと考えられた.また,高濃度K+ (60mM) による収縮を抑制し,ニカルジピン存在下のNEによる収縮も抑制したことから,電位依存性Caチャネル (VDC) および受容体作動性Caチャネル (ROC) の抑制が関与するものと考えられた.なお両者では,ROCの抑制作用の方が顕著に観察された.さらに心臓に対しては両エキスともに心拍出力の抑制を示し,アトロピン前投与による影響は部分的であった.これらのエキスをGCMS分析したところ精油類は検出されず,その作用は芳香性の成分(パクチーの持つ特異臭)には依存しないと考えられた.パクチー(葉・茎)は,血管拡張および心抑制を介して降圧作用を示すと示唆されたが,その作用は水溶性分画に多くを負っていると考えられた.