薬物が心電図上のQT間隔を延長し、torsade de pointes(TdP)といわれる致死性心室不整脈を誘発する病態を「薬物性QT延長症候群」という。このような有害事象を回避するために、日米EU医薬品規制調和国際会議(ICH)は、2005年5月に薬物性QT延長症候群の発生を回避するためのガイドライン(S7BおよびE14)をステップ4として調印し、非臨床試験・臨床試験の内容・役割を明確に規定した。日本国内では2009年10月に厚生労働省医薬食品局からステップ5として通知され、2010年より運用が開始された。  S7B/E14発効後、国内外においてTdP誘発リスクを有する新薬が市場に出ることは激減したが、催不整脈作用を有しないにもかかわらず、S7BまたはE14で陽性と判定され開発中止に追い込まれた候補化合物は少なくない。そのような課題を解決するため、2013年7月に薬物性不整脈のリスク評価の新しいパラダイムを検討するシンクタンク会議がCSRC/HESI/FDA主導で開催され、突破口として「包括的in vitro催不整脈アッセイ(CiPA)」および「曝露反応モデル化(ERM)」が提案された。その具体的運用案が2020年8月にICHより「QT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可能性に関する臨床的及び非臨床的評価に関するQ@amp@A」(E14/S7B Q@amp@A)として発表された。  薬物がK+電流の中でも特にIKrを抑制することがTdPの発生原因である。しかし、IKrを抑制してもQT間隔の延長やTdPが発生するのは素因のあるごく一部の患者に過ぎない。過去20年以上にわたり、日米欧において薬物性QT延長症候群を発症した患者の心臓内に存在すると想定される一連の病態を模倣するTdPモデルの開発が進められ、現時点ではin silicoからin vitroおよびin vivoにわたるいくつかの評価系がS7Bにおけるフォローアップ試験に位置付けられている。本講演では、まずE14/S7B Q@amp@Aを概説し、次に各薬物性TdP検出モデルの理解に必要な薬物動態、再分極予備力、早期および後期再分極時間に関する最近の知見を紹介する。