薬物により心電図QT間隔が延長し、torsade de pointes(TdP)といわれる致死性心室不整脈が誘発される病態は薬物性QT延長症候群と呼ばれている。このような不整脈の検出法として確立されている摘出心臓組織標本とin vivoウサギモデルを概説する。摘出心臓組織標本には、ランゲンドルフ灌流心モデル、動脈灌流ウエッジ標本および血液灌流心室筋標本がある。ランゲンドルフ灌流心モデルは心臓全体の電気的・物理的特性を保持した状態で薬物による催不整脈作用を評価でき、小動物の中で電気生理学的特性がヒトに近いウサギ心臓が実験に用いられてきた。動脈灌流ウエッジ標本は摘出したイヌ左室筋を左冠動脈前下降枝から生理的栄養液を灌流したものであり、血液灌流心室筋標本は摘出したイヌ心室中隔を前中隔動脈を介してハロセン麻酔犬の動脈血で交叉灌流するモデルである。動脈灌流ウエッジ標本と血液灌流心室筋標本は感度、特異度のいずれも優れるが、技術的に難易度が高いため実施施設は限られる。一方、in vivoウサギモデルとしてカールソンモデル、急性房室ブロックウサギモデルおよび遺伝子改変ウサギモデルが知られている。カールソンモデルはα1受容体刺激薬methoxamineの持続投与下で薬物の催不整脈作用を評価するモデルである。α1受容体刺激薬の心筋に対する直接作用が不整脈誘発に関与すると推定されていたが、近年の研究でα1受容体刺激薬による昇圧の反射で生じた迷走神経性徐脈が薬物誘発不整脈の出現に強く関与することが示されている。急性房室ブロックウサギモデルは閉胸下で完全房室ブロックを作製し、60回/分で心室を電気駆動した条件下で薬物の催不整脈作用の有無を判定する。TdPの検出感度はカールソンモデルより高く、α1受容体遮断作用を有する統合失調症治療薬の催不整脈作用に関する評価実績もある。遺伝子改変ウサギを用いた心臓電気生理学の検討では、LQT1ウサギでは致死性不整脈の徴候を認めないが、LQT2ウサギでは自発的なTdPに起因する突然死が観察され、1年間の生存率は約50%と報告されている。LQT5ウサギはQT時間が健常動物と同等であるもののdofetilideに対する感受性が高いことが示され、再分極予備力が低下したsilent LQTモデルに位置付けられている。新薬候補化合物の安全性評価を行うにはLQT1またはLQT5モデルが推奨され、LQT2モデルは心臓突然死のメカニズム研究としての応用が期待される。