中型動物を用いた慢性房室ブロックモデルは、薬物性TdPに対する検出感度・特異度のいずれも高く、新薬開発における催不整脈作用評価試験に活用されている。薬物動態や心臓に対する自律神経制御を含めた薬物の総合的評価ができるが、種によっては薬物代謝経路がヒトと異なる。  「イヌ」モデル:ビーグル犬を全身麻酔し、カテーテル焼灼術により房室結節を破壊することで、安定した心室補充調律を有する完全房室ブロックを作製する。このイヌでは、徐脈性心不全を代償するため、種々の神経体液性因子が分泌され、心筋リモデリングが進行する。その結果生じる再分極予備力の減少が薬物性QT延長症候群の発生基盤になる。「イヌ」モデルの場合、完全房室ブロック作製後4週間以上経過すると薬物性TdP誘発作用を検出できるようになる。1日臨床用量の3倍以下でこのモデルにTdPを誘発する薬物を「高リスク」、臨床用量の3倍以下ではTdPを誘発しないが、3倍を超える用量でTdPを誘発する薬物を「中リスク」、いずれの用量でもTdPを誘発しない薬物を「低リスク」と、薬物のTdP誘発リスクを3段階に分類することが可能である。このモデルは麻酔下、無麻酔下いずれにおいても薬物のTdP誘発リスクを評価することができる。「イヌ」モデルでは、ほとんどの個体でTdPが心室細動に移行するので、同一個体を用いた陽性対照薬と新薬候補化合物の比較や用量反応性の評価は困難である。  「サル」モデル:カニクイザルに「イヌ」モデルと同様の手技を用いて慢性房室ブロック「サル」モデルを作成することができる。「イヌ」モデルと同様に麻酔下、無麻酔下いずれにおいても薬物のTdP誘発リスクを評価することができる。「サル」モデルは、「イヌ」モデルと同程度のTdP検出感度を有しているが、「イヌ」モデルとは異なり、発生したTdPの大部分は自然停止するので、同一個体を用いた多剤比較や用量反応性の評価が可能である。  「ブタ」モデル:世界最小サイズの超小型実験用ミニブタ(登録名:マイクロミニピッグ)にイヌやサルと同様の手技を用いて房室ブロックを誘発する。術後2ヶ月以降にIKr抑制薬を投与すると、イヌやサルよりもQT間隔が大きく延長するが、TdPは誘発されない。他の動物モデルと異なり「ブタ」モデルでは、IKr抑制薬により早期再分極時間が延長しにくいことがその原因とされている。