第57回神奈川歯科大学学会総会

宿題報告

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光感受性物質を利用した口腔癌治療への光線力学療法の応用

生体機能学講座歯科薬理学分野 准教授 吉野文彦

光線力学療法の最大の特徴は,様々な波長の光を用いて光感受性物質や光増感剤を励起させることで生じる活性酸素種 (ROS) により,抗悪性腫瘍作用を発揮することである。近年,副作用 (光過敏症) が少ないとされる第 3 世代ポルフィリン前駆体 5-アミノレブリン酸 (ALA) の研究が世界的に進められている。ALA それ自体には光増感性はないが,投与後ミトコンドリア内で光感受性を持つ Protoporphyrin IX (PpIX) となる。とくに,ALA の細胞内代謝速度は正常細胞と癌細胞では著しく異なり,PpIX は癌組織で高度に蓄積する特徴をもつ。これは,いずれの癌細胞も有する生物学的特徴であり,この現象を利用しALA を用いた光線力学療法 (ALA-PDT) は,ほぼ全ての癌種に応用できる技術である。現在,ALA-PDT では深部癌治療へ赤色光が通法として照射される。一方,PpIX の吸光スペクトルは,赤色光より青色光に吸収度の大きいピークがある。これは,PpIX を励起させる光は赤色より青色が適切であることを示しており,先行研究で PpIX への青色光照射で細胞傷害性が非常に高い一重項酸素 (1O2) が生成されることを報告している。しかし,深度の大きい癌への ALA-PDT では青色光より低吸収度の赤色光が使用されており,本来の PpIX の光励起反応を最大限に生かしていない。加えて,口腔癌への PDT の歴史は非常に浅くこれまで基礎的研究も少なく,青色光に着目した口腔癌への ALA-PDT 研究は行われていない。今回,ALA-PDT へ青色光を用い PpIX の光励起反応を最大活用することで,従来型 PDT より治療効果が高い口腔癌 PDT 戦略の確立を目的として口腔癌 ALA-PDT の基礎的検討を行った。
研究方法は以下の通りである。① ALA処置による細胞内 PpIX 濃度の検討:口腔癌細胞として HSC-3および Ca9-22 を用い,各濃度の 5-ALA添加後 4-24 時間インキュベートを行った。培養後上清を除去し, PBS で洗浄後 SDSを添加し細胞内 PpIX の測定を行った。② PpIX からヘムへの阻害作用の検討:細胞内 PpIX は時間経過とともに鉄イオンとキレート結合することでヘムになる。したがって,これら反応を阻害するため,1) Deferoxamine (DFX) 添加 2) 血清非存在下による細胞内 PpIX の測定を行った。③ 添加剤による細胞増殖への影響の検討:細胞増殖は Cell Counting Kit-8 (CCK-8) により測定した。また,各薬剤でインキュベート後,フェノールレッドを含有/非含有 DMEM で24時間培養し細胞増殖を評価した。④ ALA-PDT 検討:先に決定した条件で細胞培養を行い,青色光および赤色光を一定時間照射し殺細胞効果と光エネルギー依存性について評価した。⑤酸化ストレス測定:Ca9-22 に対し ALA-PDT を行い生じる酸化ストレスを蛍光性酸化ストレス検出薬を用いて検出を行った。
ALA 処置により細胞内 PpIX 濃度は,HSC-3,Ca9-22で共に ALA 濃度依存的に増加が認められたが,12.5 M 以上では,低下傾向が観察された。とくに,血清非存在下および DFX 存在下による ALA 処置で細胞内 PpIX 濃度は高値を示した。一方,細胞内 PpIX 増加が認められる条件下の細胞増殖は,CCK-8 添加時にフェノールレッド非存在下で適切な観察が可能であり,細胞培養後,青色・赤色光照射を行った結果,Ca9-22 に対し,青色光照射は有意な殺細胞効果を示した (p<0.01)。細胞内酸化ストレスは青色光照射により非照射群と比較し増加傾向が観察された。以上の結果,ALA 処置により癌細胞内で PpIX が増加し,とくに青色光照射により細胞内で ROS が生成され殺細胞効果を発揮した可能性が示唆された。また,通法の赤色光照射より青色光照射では有意に殺細胞効果が増加したことから今後 ALA-PDT を発展させるため,青色光を用い癌細胞移植による in vivo 研究を継続していく必要性があると考えられる。