[1-P2-PM04] 雄性マウス分界条床核ニューロン活動の抑制が味覚嫌悪学習の想起に及ぼす影響

Author: 〇菊池 媛美1,2、乾 賢1、蘇 韶懿1、舩橋 誠1
Affiliation: 1北大 院歯 口腔生理、2北大 院歯 矯正歯科
Abstract: “分界条床核は味覚嫌悪学習(conditioned taste aversion, CTA)の中枢神経機序に関与しているが,その想起における役割は不明である.抑制性DREAD(Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)である変異型ムスカリン受容体(hM4Di)を雄性マウスの分界条床核に導入し,ニューロン活動の抑制がCTAの想起に及ぼす影響を調べた.16匹のC57/BL6雄性マウスの分界条床核にAAV8-hSyn-hM4Di-mCherry(0.5 ul/side)を注入した.飲水訓練を1週間行った後,条件刺激として0.2%サッカリン溶液を15分間呈示した直後に,無条件刺激として0.3 M 塩化リチウム(20 ml/kg)を腹腔内投与し,条件づけを行った.その後の3日間のテストにおいて,1日目では,全てのマウスが著明なCTAを獲得したことを確認した.テスト2日目では,サッカリン溶液呈示の30分前に,実験群9匹にhM4Di の選択的リガンドであるクロザピン N-オキシド(CNO)(1 mg/kg, 0.5% BW)を,対照群7匹に生理食塩水(0.5% BW)を腹腔内投与した.対照群はテストの回数を重ねる毎にサッカリン溶液の摂取量が増加した.一方,実験群ではサッカリンの摂取量が減少した個体(n = 4)と増加した個体(n = 2)が存在した.サッカリン溶液の摂取量が減少した個体ではhM4Di発現細胞が分界条床核の前部に,増加した個体では後部に分布していることを組織学的検証によって確認した.実験群のうちhM4Diの導入が不十分であった個体(n=3)と対照群の間に差はみられなかった.以上の結果から,雄性マウスにおいて分界条床核ニューロンの不活性化が条件刺激に対する嫌悪を増強または減弱させることが明らかとなった.hM4Di発現細胞の分布部位によってCNO投与の効果に違いがみられたことから,分界条床核の前部と後部ではCTAの想起に関して担う役割が異なる可能性が示唆された. “

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コメント

  1. 硲 哲崇 より:

    硲@朝日大・口腔生理です。
    発表を通してマウスが「雄性」であることを強調されていますが、このような記憶の想起には性差があるとお考えでしょうか?

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    • 菊池媛美 より:

      朝日大学 口腔生理学教室
      硲 哲崇 先生

      ご質問頂きましてありがとうございます.

      現段階では雄性マウスのみを用いて実験をしていますが,私は味覚嫌悪学習の想起に性差が存在する可能性があると考えております.

      先行研究より,分界条床核背外側核内の総ニューロン数及び容積,発現するストレスホルモンの量はメス優位であることから,不安や恐怖の感じ方に性差が存在する可能性が報告されています.分界条床核が味に対する嫌悪や文脈恐怖を増強するのであれば,メスの方がよ,,増強され摂取量が抑えられると予想しています.

      また,私の研究は神経性食欲不振症(anorexia nervosa, AN)を出発点として始まりました.日本でも若い女性を中心として患者数が増加している一方で,有効な治療法がないのが現状です.神経性食欲不振症には脳内報酬系が関与しているとされています.そして脳内報酬系は味覚嫌悪学習にも関与していることが明らかとなっています.脳内報酬系を構成する腹側被蓋野が分界条床核から神経投射を受けていることから,分界条床核に注目して実験を始めることになりました.女性の有病率の高い疾患への関与が示唆されている点からも今回の実験に性差が存在すると考えています.

      今後,メスを用いて同様の実験を行い,性差について検討していく予定です.

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  2. 硲 哲崇 より:

    ご説明ありがとうございました。
    過食症や拒食症といった問題の解決にもつながりそうで、大変有意義な研究だと思います。今後の発展を祈念します。

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  3. 小林真之 より:

    大変興味深く拝見しました。
    不勉強のため幾つか教えて頂きたいことがあります。
    1.分界条床核内のニューロンの種類について
    興奮性ニューロンと抑制性ニューロンが存在しているかと推察しますが,その割合はどの程度なのでしょうか?実験で使ったベクターで,興奮性ニューロンのみ(あるいは大部分)が感染したとかんがえてよろしいのでしょうか?
    2.分界条床核内のニューロンの投射元と投射先を大まかで構いませんのでご教示頂けると大変勉強になります。

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    • 菊池媛美 より:

      小林 真之 先生

      ご質問頂きありがとうございます.
      回答が遅くなり,大変申し訳ございませんでした.

      1.分界条床核には興奮性・抑制性の両方が存在し,その構成は背側と腹側で異なります.背側は抑制性が約66%,興奮性が14%と,抑制性ニューロンが大部分を占めています.これに対し腹側は抑制性が約32%,興奮性が29%と同程度です.今回の実験では,どちらかを選択的に抑制したわけではないので,興奮性・抑制性に関わらず全体の活動が抑えられたことで得られた結果と考えています.行動実験終了後に組織切片の免疫染色を行いましたが,今回の発表までに間に合わせることが出来なかったので,今後の発表の機会にお見せできればと思います.

      2.分界条床核は扁桃体中心核及び内側核からの入力を受け,腹側被蓋野,視床下部,赤核へニューロンを投射しています.

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  4. 小林真之 より:

    有り難うございます。

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