第56回神奈川歯科大学総会

宿題報告

口腔解剖学 准教授 東 雅啓


 エイジングに伴う循環障害が脳および口腔に与える影響
―微小循環的手法を用いた形態学的解析―


 超高齢社会を迎えた日本では、疾病構造の変化や要介護者数の増加により、医療・福祉における問題がクローズアップされてきている。そのような中で、個人のQOLをいかに低下させずに健康寿命を延ばすかが課題となっている。しかしながら、生活習慣病などの全身疾患の有病者数は年々増加し、近年ではその全身疾患と歯周病などの口腔疾患との関連性が社会的に問題視されてきている。我々のリサーチグループはこれまでに歯周組織の微小循環に注目して研究を行ってきた。歯周組織においては多数の血管網が存在しており、ヘアピン状の毛細血管ループが規則的に認められる。また、イヌを用いた実験においては、歯周組織再生過程で血管新生を誘導することで歯槽骨の早期再生に繋げられることを見出し以前に論文発表した。さらには歯科治療時に用いる機器の種類によって歯周組織の血管網が障害される程度が異なることも形態学的に見出した。これまでにマウスを用いて脳虚血による全身および口腔機能への影響も学会・論文発表をしており、脳および口腔における微小循環を重要性について検討を行ってきた。そこで本研究では、様々な生活習慣病の発症や病態において鍵となる循環機能(動態や形態)に着目し、エイジングに伴い生じる循環障害を脳および口腔の微小循環に焦点を当てて検討し、全身疾患と口腔疾患との関係性の解明に繋げることを目的として行った。
 本研究では、老齢ラットを用いて脳および口腔の微小循環・運動機能を検討した。血管の形態学的解析を行うために、注入用合成樹脂メチルメタクリレートによる血管鋳型標本を作製し、走査型電子顕微鏡で脳周囲と歯周組織の血管を観察した。観察結果から、脳および口腔における循環障害の状態を評価した。運動機能はオープンフィールドテストを用いて解析した。また血管新生の促進因子であるVEGFの唾液中および血中濃度をELISAにて測定することで、血管新生における機能学的解析を行った。
 解析の結果、コントロールと比較して歯肉における血管ループが乏しく、実験群における血管は比較的太くいびつな形態を示した。また実験群の脳においても同様な形態を認めた。さらに運動機能においては、オープンテストを用いて評価したところ、センターエリアへの侵入回数が有意に少なかったほか、総移動距離も少ない傾向であった。そして、唾液中および血中VEGFは実験群で高い傾向にあった。
 以上の結果から、老齢ラットにおいて運動機能の低下が認められたほか、歯肉や脳における微小循環が乏しいことを見出したことから、エイジングに伴う全身機能や微小循環の障害を確認することができた。今後は運動機能の低下および微小循環の障害を改善して全身と口腔の関連性を検討して、生活習慣病などの疾患の改善や予防にどのような効果を与えるか分析することで、全身疾患と口腔疾患との関係性の解明に繋げたい。


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